たびたびニュースになる高齢者の自宅がゴミ屋敷になってしまう問題……これにはいろんな原因があるっポ。
両親がゴミをため込んだら困るし心配だよ……。
<ゆうじさん(仮名)55歳>
74歳の母は実家で一人暮らしをしています。
久々に孫を母に会わせたいと思い家族で帰省してみたら、実家が泊まれないほどのゴミ屋敷になっていました。
さすがにひどい状態なので片付けようとしたのですが、母は怒り出しますし、片付けてもゴミ袋から出してしまいます。
無理にでもゴミを捨てようとすると険悪な雰囲気になってしまいます。
しかし、このまま母親をゴミの中で生活させたくはありません。どうすればよいのでしょうか。
ゴミがたまっていると衛生面も心配だっポ……。なんで実家がそんな状態になっちゃうのかな?
久々に帰省してみると実家がゴミ屋敷になっていた……家族はショックを受けると同時に、離れて暮らす親の生活環境や健康状態などが心配になります。
ゴミ屋敷とは、自宅がゴミに侵略されてしまった状態です。
ゴミ屋敷の問題は不衛生なだけではありません。ゴミだけでなく、住人は心身の問題を抱えていることが大半です。
例として、高齢者の自宅がゴミ屋敷となってしまった2つのケースを紹介しましょう。
1つ目のケースは、生ゴミがたまってしまった家です。
一人暮らしをする77歳の男性は、統合失調症の疑いがあり、後日検査でアルツハイマー型認知症と診断されました。
その男性の自宅にたまったゴミの種類は主に野菜などの生ゴミで、敷地には腐った生ものの入った段ボールが積み上がっていました。
家の中はようやく通れる状況で、悪臭と虫刺されの世界です。
見かねた周辺の住人たちがゴミを捨てるように言っても、その男性はゴミを指して「これは宝物だから捨てない」と、大変な剣幕で怒り出してしまいます。
しばらく経つと、その男性は腹痛や発熱で入院。不衛生からの病気だとして、行政などがゴミを片付け清掃することになりました。
すっかりきれいになったのですが、本人が退院すると結局はすぐに元のゴミ屋敷に戻ってしまいました。
2つ目のケースは、不衛生から害虫や害獣が発生してしまった家です。
この事例の舞台は、70代の夫婦が二人暮らしをするご自宅。夫には認知症があり、妻はうつ病を患っていました。
このお宅を訪問すると、いつも食べ残しが食卓に放置され、台所には隅の破れた袋入りみそなどが置いてあります。
部屋の中には大量のゴミ袋が積み上がり、大半が捨てられない衣類でしたが、それ以上に困ったのがネズミとゴキブリです。
家の中にはゴキブリ、そして玄関扉を開けると床にはまき散らしたようなネズミの糞があります。毎日、訪問ヘルパーが掃除をするのですが、翌日には同じ状態に戻っています。
原因となる放置された食べ残しなどを片付けようとすると、うつ病の妻が怒り出して「そのままにしておいて」といいます。
それだけでなく、認知症の夫は「ネズミたちが食べるから片付けてはかわいそうだ。夜中には布団の周りでネズミが運動会をしているから」と、楽しそうに話すのです。
非常に困ったケースでした。
高齢者が自宅をゴミ屋敷化してしまうのには、主に3つの原因があります。
高齢者は身体能力が低下して家事が滞ってしまいゴミ出しができない、認知症でゴミかどうかの区別がつかないといった原因から、自宅をゴミ屋敷にしてしまう状況が多く見られます。
原因のひとつに、自己放棄や自己放任といわれるセルフ・ネグレクトがあります。
セルフ・ネグレクトとは、認知症や精神疾患によって判断能力が低下し、不衛生な環境でもかまわないという意識になってしまうものです。
認知症になると、順序立てて物事を考えることができなくなり、取捨選択の能力が低下します。
また、精神疾患が合併している場合には“ゴミを捨てないこと”に、本人にしか分からないような意味があるのでしょう。
ゴミ屋敷の害虫・害獣の事例(ケース2)などは、セルフ・ネグレクトといえるでしょう。
ゴミ屋敷のパターンにはもうひとつ、所有物を捨てられない、手放すことができない、普通の人にはゴミとしか思えないものでも宝物だと考えるなど、ためこみ症であるケースもあります。
ゴミを宝物とする心理は、孤独や不安をゴミで埋めた代償といえるでしょう。
こういった場合、ゴミを片付けようとすると本人が怒り出して拒否し、ゴミを再び家の中に入れたり、片付けてもまたゴミをため込んだりと、ゴミ屋敷化が繰り返されます。
生ゴミをためこんでしまったケース1のような事例です。
他にも、高齢や身体的な障害によってゴミを出すことが困難になるパタ―ンもあります。
本人は捨てたいと思っていても体が不自由なため捨てられず、ゴミが徐々に積み上がってしまうようなケースです。
親の自宅がゴミ屋敷化してしまっていたら、家族が最初にすることは親とのコミュニケーションやスキンシップではないでしょうか。
もし親がゴミを宝物のように思っていたなら、孤独感や不安などを埋めるために“その宝物”に依存しているのでしょう。
ゴミをためてしまう心理に不安や心細さがあるならば、丁寧に親の気持ちを聞く必要があります。
配慮をせずに頭ごなしに怒ったり勝手に捨ててしまったりすると、関係性が悪くなるばかりでなく、親に関わること自体を拒否されるなどの事態も起きかねません。
周りが本人のためにと片付けたとしても、「大切なものを捨てられた」という悪感情になってしまいまうのです。
ゴミをゴミとして廃棄して、その後の親の空虚な気持ちや生活を別のかたちで埋めていくのは、家族や身近な人にしかできないことです。
丁寧なコミュニケーションをとりましょう。
片付けられなくてゴミがたまってしまっただけなら、廃棄の方法を親と相談すれば解決できます。
ゴミ捨てができない原因が高齢や身体的な理由であれば、行政によるゴミ出し支援制度を活用できます。自治体や福祉関係が窓口になっているので問い合わせてみるとよいでしょう。
地域によって方法が違うとはいえ、一人暮らしで家族がゴミ出しの手伝いなどできないたくさんの方々が利用しています。
高齢者が理解や納得していないままゴミを廃棄しても、ゴミ屋敷はすぐに再発してしまいます。
住人以外にはゴミでしかないものも、本人にとっては「あれば安心」なのです。
「あれば安心」なものを廃棄してもらうには、本人に「それを捨てよう」という考えになってもらわなければなりません。
ゴミ屋敷を招く原因は、高齢者の病気や身体的な問題だけでなく、生活への不安や孤独感などの心細さ、人間関係を含めた環境にもあります。
ゴミ屋敷を再発させないためには、本人の心理を理解する必要があるのです。
「あれば安心」に代わる安心は簡単には手に入らないかもしれません。
それでも、信頼関係や心の拠り所を得ることができれば、ゴミをゴミとして受け入れられるようになるのではないでしょうか。
ゴミ屋敷の支援は、「困っているので助けて欲しい」という住人であればやりやすいのですが、プライドなどから社会的な支援を拒絶する考えの方も多くいます。
そういった高齢者や障害者の方々のゴミ屋敷化を防ぐための支援には、家族や友人、隣人からの信頼に基づいたコミュニケーションやアプローチが欠かせません。
ゴミ屋敷問題は、強制的なゴミの片付けや廃棄、清掃が主な対処ではなく、人としてのプライドや、ゴミを捨てられない心理に沿った支援が必要なのです。
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