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認知症の母親の介護認定。低い判定結果に納得できない【介護認定調査員が回答】

認知症の母親の介護認定。低い判定結果に納得できない【介護認定調査員が回答】認知症の母親の介護認定。低い判定結果に納得できない【介護認定調査員が回答】
はーとん

認知症の人は、他人の前で急にしっかりすることがあるっポ。そのせいで相談者すみかさんのお母さんは、介護認定の結果が低く出たみたいなんだ。

母

そんなの困るわ。それだと必要な介護サービスを利用できないかもしれないじゃない。

はーとん

でも安心するっポ!
認知症の人の要介護認定で失敗しない方法、判定結果に納得いかないときの対処法を、介護・認知症のプロが教えてくれるよ。

*この記事の著者は介護認定調査員・介護福祉士・認知症介護実践者研修修了者です。

相談:認知症の母親の介護認定結果が実情に沿っておらず不満。どうすればよかった?

<すみかさん(仮名)56歳>
現在、78歳の認知症の母と同居しています。自宅では、「財布がなくなった、あんたが盗った」と言い出したり、食事を食べたのに食べていないと怒り出したりすることが多く、精神的な負担も介護の手間もかかっています。
しかし、人前では人当たりがよく受け答えもしっかりしているうえ、体も元気なので認知症とは思われません。

そのせいか、先日受けた要介護認定では要支援1の結果でした。負担が多くてとても困っているのに、この結果は正直納得いきません。
母のようなタイプの認知症の場合、要介護認定ではどうすれば実情に沿った判定をしてもらえたのでしょうか?

はーとん

介護度が低いと、少ない負担で利用できる介護サービスの量が減っちゃうし、要支援と要介護では大きな差があるよね。
どうすれば納得のいく認定結果が出たのかな?

急にハキハキと?認定調査で急にしっかりする認知症の人も

体が元気な認知症の人が要介護認定を受けた場合、思ったような結果が出なかったという話は、残念ながら多く聞かれます。

相談者のお母さまのように他人の前でしっかりと受け答えができる方だと、初めて会う調査員に対しても「普段以上にしっかりしなければ」という意識が働きやすく、ハキハキと答えてしまう傾向があります。
ご本人には「自分ではなんでもできている」という意識があり、実際には“できていない”ことであっても、本人は“できている”というありのままの事実を伝えているのです。

認定調査員は74項目もの確認を行っていますが、調査の時間は限られています。そのため、本人がしっかりしていると認知症かどうかを判断しかねることもあります。

例えば、普段はお風呂にも入らず髪もぼさぼさで着替えもほとんどできない認知症の女性が、調査時には服を着替えて化粧をし、髪も整えて応対するようなケースがありました。
この女性のケースでは認定調査員とのやり取りもスムーズだったため、認知症の症状はうまく伝わらず、結果は要支援1に。相談者のお母さまと同じような状況だったのかもしれません。

このように認知症の人の要介護認定では、本人の受け答えがうまくいっていると、実情が伝わらない可能性が高くなります。特に身体的な面で介護を必要としない認知症の人は、調査員に認知症状が伝わらないと介護度が低くなることも少なくないでしょう。

認知症の人の介護認定ではコレ!実情にあった認定結果を出す方法

認知症の人が受ける認定調査のポイント
・家族は可能な限り認定調査に同席する
・同席できないときは電話での聞き取りをお願いする
・申請時に様子を記した書面などを添付する
・同席時には調査に反映されるような情報を簡潔に伝える
・介護で困ることや時間をとられることは、頻度や時間帯も伝える

「要介護認定を受けたのに認知症の症状を加味してもらえなかった」と後悔しないために、家族は可能な限り認定調査に同席しましょう。
認知症の人は、できていないことも自分ではできていると認識していることが多いため、調査時に聞かれた質問に「できます、いつもやっています」と答えてしまう高齢者も少なくありません。

その受け答えがスムーズにできる人ほど、認定調査員も認知症状により家族が困っているかどうかの判断が難しくなります。
ですから、家族が認知症で困っているのであれば、調査に同席して普段の様子を伝えることが大切です。

同席時に大事なのは、調査に反映されるような情報を簡潔に伝えることです。
実は、要介護認定の判定基準は全国統一です。実際に調査される項目については公表されているため、事前にどのような項目が聞かれるかを把握しておくとよいでしょう。

また、介護するうえで困ることや時間をとられてしまうことなどは、その頻度や時間帯も重要な判断基準となります。別居の場合には、「訪問したときはいつも」なのか、「訪問した日のうち数日に1回」なのかどうかも伝えると、より実情が伝わりやすくなります。

もし、認定調査の同席が難しい場合は、電話での聞き取りをお願いすることもできます。実際に、仕事が忙しかったり遠方に別居していたりするなどの理由で、電話での聞き取りを希望する家族は少なくありません。申請時だけでなく、日程調整のタイミングでもお願いできますので安心してください。

多忙などで電話も難しい場合や、同席していても本人の前で認知症状について話せないときには、申請時に様子を記した書面などを添付して提出する方法もあります。
書面を付けておけば、認定調査員は「ご本人には認知症がある」と事前情報を得られるため、実情に沿った調査となる確率は高くなるでしょう。

認定結果に納得できず、やり直したいときには

すでに判定された要支援・要介護度について要介護認定をやり直してもらいたいときには、「審査請求」と「区分変更」のふたつの方法があります。

やり直しを求める「審査請求」

審査請求は、介護認定の結果に不服があるときに調査のやり直しを求めることができる制度です。介護認定結果を知った翌日から3カ月以内であれば、口頭もしくは文書で申し立てができます。
ただし審査請求は、すでに出ている介護認定をいったん取り消して改めて調査を行うため、結果が出るまでに数か月かかります。

審査請求をするときは、各都道府県に設置されている介護保険審査会に申し立てます。
文書で申し立てる場合は、「審査請求書」や「審査請求に係る処分通知の写し」「参考になる書類」などを提出します。
口頭での申し立ての場合は、介護保険審査会事務局で審査請求書記載事項の内容を伝えます。それをもとに作成された書類の内容を確認して押印すると、申し立てが受理されます。

心身状態の変化で申請する「区分変更」

区分変更は、受けた認定の有効期間中に心身状態が変化したときに申請できる制度です。
新規や更新の申請と同じように、お住まいの市町村窓口に申請して、再度認定調査を受けることができます。

手続きの方法や認定結果が出るまでの期間も新規・更新申請と変わりませんが、区分変更は状態の変化に伴う変更依頼のため、申請時には変更理由を記載します。
また、区分変更はあくまで心身状態の変更に伴う再調査となるため、認定結果の不服を理由とする調査は対象外です。しかし、審査請求は手間がかかることもあり、区分変更を利用して認定をやり直しているのが現状です。

まとめ

認知症を持つ人の要介護認定では、普段の様子をどれだけ正確に伝えられるかが重要です。家族や介護に関わる人が、認知症状による手間がどれだけあるのかを普段から記録しておけば、調査時に慌てずにすみます。また認定調査に同席すれば、情報が正確に伝わりやすく失敗も少なくなります。
それでも、もし思ったような結果が出なかったら、担当ケアマネジャーに相談して介護認定のやり直しを検討するとよいでしょう。

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著者:中村 楓

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著者:中村 楓

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介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級、認知症介護実践者研修修了
現役介護福祉士の介護コラムニスト。介護療養型医療施設(現:介護医療院)を含む病院やデイケア、デイサービスなど、入所から在宅までさまざまな現場を経験。介護職員や介護認定調査員の経験を経て、現在は相談員として勤務。介護の未来を明るくしたいという想いから、現場感あふれる記事を誰にでもわかる表現で執筆中。

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