【認知症ケア】やってはいけない接し方&困ったときの対応方法とは?

認知症の人との接し方は、本人の気持ちを理解することがポイントだっポ。
「やってはいけない接し方」と「上手な対処方法」を認知症介護実践者研修を修了した著者が紹介するね。

認知症でよくある症状を知ろう

認知症の人を介護するうえで大切なのは、認知症についての正しい理解です。
まず、認知症ではどのような症状が見られるのかを知りましょう。

認知症の症状には、認知症になると必ず出現する中核症状と、その人の性格や置かれている環境などによって引き起こされる周辺症状があります。
それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。

中核症状

中核症状とは、認知症になると必ず見られる症状のことです。中核症状には次の5つがあります。

記憶障害

認知症の症状でもっとも知られているのが、記憶障害です。数分前から数日前のといった短期間の記憶が抜け落ちやすいという特徴があります。また、体験そのものを丸ごと忘れてしまうことも多いでしょう。
具体的には、食事した内容を忘れるのではなく、食事をしたこと自体を忘れてしまいます。

見当識障害

見当識障害とは、時間や月日、場所、関わる人を認識できなくなることをいいます。認知症の中でもアルツハイマー型認知症の人によく見られる症状です。

見当識障害が起こると、時間が分からなくなって昼と夜が逆転したり、月日が分からず季節感のない服を着てしまったりします。
また、外出して家に戻れなくなるトイレの場所が分からず排泄を失敗してしまう、といった場所がわからない状態になることもあります。

なじみの人が誰だかわからなくなる「人の見当識障害」は、進行すると鏡で自分の姿を見ても自分だとわからなくなってしまうことがあります。しかし、「人の見当識障害」は認知症状がかなり進んでから出ることが多いでしょう。

理解力・判断力の低下

認知症になると思いもかけない行動をすることが増えます。
一人暮らしの認知症の人によく見られるのが、訪問販売での不必要な契約です。理解力や判断力の低下によって起きやすくなります。
また、瞬時の判断を必要とする車の運転では、正常な判断ができずにアクセルを踏み間違えたり、逆走してしまったりします。

失語・失行・失認

認知症になると、言葉による理解や表現が難しくなる「失語」や、道具を正しく使えなくなる「失行」、見ている物を正しく認識できない「失認」という症状も見られるようになります。
これらは認知症の初期から見られることがありますが、認知症と思われずに怠けていると勘違いされてしまうこともあります。

遂行機能障害

遂行機能障害とは、料理の作り方がわからなくなり料理ができなくなったり、それまで使えていた家電が使えなくなったりすることです。
はじめは複雑な作業からできなくなっていき、認知症が進行するにつれて着替えなどの簡単な動作もできなくなります。そのうち着替えそのものを拒否してしまうなど、介護の手間も増大していきます。

周辺症状

認知症の症状のうち、本人の性格や環境などによって引き起こされる症状を周辺症状といいます。よくみられる周辺症状には次のようなものがあります。

  • 不安感
  • 抑うつ
  • 幻覚、幻聴
  • 妄想
  • 徘徊
  • 睡眠障害

など

このうち、不安感や抑うつ状態は認知症の初期から見られる症状です。そのため、物忘れが目立たないうちは認知症ではなくうつ病と間違われることもあります。
幻覚や幻聴、妄想はレビー小体型認知症によくみられる症状で、進行すると「家に泥棒が入った」というような被害妄想につながる可能性もあるでしょう。

また、睡眠障害や徘徊が見られるようになると家族の介護の手間も増すため、周辺症状は家族の介護ストレスが増えるきっかけになり得ます。
ただし、本人への接し方を変えたり、過ごしやすい環境を整えたりすることで、症状が緩和される可能性もあります。

症状によっては薬物治療で落ち着くケースもあるため、周辺症状に困ったときは主治医などに相談してみてください。

認知症の人の接し方で大切なのは、気持ちを理解すること

認知症の人の介護でもっとも大切なポイントは、認知症の人の気持ちを理解することです。

認知症の人は何もかも忘れてしまっていると思いがちです。しかし、実際は自分の症状をある程度理解し、自分が忘れてしまうことやできないことに対して「辛い」「悲しい」という思いや葛藤を抱えています。
また、「自分はこれからどうなってしまうのか」と不安を感じている人もいるでしょう。

認知症介護では、このような認知症の人が感じている気持ちをできる限り理解したうえでの支援が大切になります。

しかし、家族だけで解決しようとがんばりすぎてはいけません。介護負担が大きくなるだけでなく、相談する相手がなく孤立してしまい、精神的に追い詰められてしまうことも考えられます。

家族は「世間に迷惑をかけないようできる限り自分たちで介護しよう」と考えがちですが、認知症介護では周りの人からの支援や介護保険制度の活用も大切といえるでしょう。

認知症の人への接し方でやってはいけない8つのこと

認知症の人と接するうえで気を付けたいのが、対応の仕方です。
認知症の人は、自分がした言動は忘れてもそのときの感情は残っています。加えて、感情のコントロールがうまくいかないため、家族の対応の仕方によってはパニックになったり、態度を硬化させてしまったりすることもあります。
上手な接し方ができるよう、やってはいけない8つの言動について解説しましょう。

01.行動や発言を否定する

自分の行動や発言が否定されたら、誰でも嫌な気持ちがするものです。特に認知症の人は、多くの場合で自分では間違った言動をしているつもりがありません。そのため否定されると、興奮したり不安になったりしてしまいます。
行動や発言への否定を続けると本人が心を閉ざしてしまい、必要な支援を受け入れてくれなくなることも少なくありません。

02.認知症の人を馬鹿にする

認知症の人を馬鹿にするような言動は絶対にしてはいけません。認知症の人は体験そのものを忘れても、そのときに感じた思いはずっと残っています。
また、周りの人の感情を敏感に感じる人も多く、自分のことを馬鹿にしている人や見下している人に対して強く拒否を示すこともあります。

03.話を聞かずに無視する

認知症になると、言葉が出ずらく話がうまくできなかったり、つじつまが合わなくなったりします。話の意味が分からず同じ話の繰り返しになるなど、忙しいときには無視したくなるかもしれません。

しかし認知症でなくても、話を聞いてもらえない、無視されるなどの行為はとても傷つくものです。お互いの信頼関係が崩れることにもなりますし、認知症状が悪化するきっかけにもなるため、話を聞かずに無視するような行為はやめましょう。

04.できないことを強要する

認知症の初期には、「これ以上進行しないよう何かしなければ」と、本人に計算などの脳トレをやってもらおうとする家族も少なくありません。
認知症の人の能力に合わせた内容であれば問題ありませんが、できないことをさせると本人にとってストレスとなり、周辺症状を引き起こすきっかけになる可能性もあります。
特に脳トレは自信の喪失にもつながるため、本人が乗り気でない場合には勧めない方がよいでしょう。

05.認知症であることを周りに隠す

近年では、認知症に関する情報をテレビやインターネットなどでも頻繁に発信するようになりました。認知症に対しての正しい知識は以前よりも広まっているといえるでしょう。
しかし、認知症への偏見はいまだ根強く残っていることから、家族が認知症だと周りに知られたくない、恥ずかしいと感じる人も少なくないのが現状です。

親戚や近所に隠すだけでなく、地域包括支援センターのような専門機関にすら相談せず、家族だけで介護をする人もいます。
認知症であることを家族が周囲に隠してしまうと、本人を家に閉じ込めてしまう結果となり、必要な支援も受けられません。お互いに苦しむことになってしまいます。

06.必要以上に叱ったり責めたりする

認知症になると、記憶障害や遂行機能障害(順序立てた物事の実行ができなくなること)などが原因となって、日常生活のさまざまな場面で失敗してしまうようになります。
しかし、失敗したからと激しく叱ったり責めたりしてはいけません。認知症の人にとっては逆効果です。むしろ、症状を悪化させるきっかけになることが多いでしょう。

07.行動を制限する

認知症の症状が進行すると、家事がうまくできなくなったり、徘徊が見られるようになるなど、家族の介護負担も増えていきます。それでも、認知症の人の行動を制限してはいけません。
行動を制限してしまうと、できることもできなくなってしまいます。また、ストレスから認知症の症状が悪化したり、意欲が低下して寝たきりになったりすることもあります。

08.環境を変える

認知症の人は新しい情報を記憶する機能が低下するため、環境の変化にうまく対応できません。入院や施設への入所によって、認知症状が悪化するような事例も多く見られます。
やむを得ず環境を変えなければならない場合には、なじみの物を置くなどして少しでも安心できる空間を作るとよいでしょう。

認知症介護で困ったときの上手な対処方法

認知症介護では、どのように対処するべきか悩む場面が多々あります。
ここでは、具体的な事例と対処方法を紹介します。

お金の管理ができていないとき

認知症が進行すると、金銭管理がうまくできなくなります。
もし家賃や水道光熱費を滞納しているなら、本人の了解を得て口座引き落としの手続きを進めましょう。

いつの間にかお金がなくなってしまい生活に支障が出ているなら、お金の管理方法を検討する必要もあります。大きなお金は家族が管理し、普段の買い物で使うお金は本人が管理するという方法もあるでしょう。
金銭管理を本人から家族に移行する場合には、本人とよく話し合い納得してもらうことも大切です。

自宅にいるのに「家に帰る」と言うとき

認知症が進行すると、自宅にいるのに「家に帰る」と言うようなことがあります。このような帰宅願望が出ているときは、自分の家は“今住んでいる家”ではなく、“子供のときに住んでいた家”や“以前住んでいた家”である状態です。
対策としては、お茶を出すなどしてお客さまとして接すると、落ち着くことがあります。

物盗られ妄想が見られるとき

認知症のよくある症状のひとつに、物盗られ妄想があります。物盗られ妄想が見られるときには、まず一緒に探すことが大切です。
もし“盗られたもの”がいつも同じであれば、置き場所を決めておきます。「ここにあるよ」と家族が言うだけで落ち着くことも多いでしょう。

幻覚や幻聴が見られるとき

幻覚や幻聴が見られるときは、そっと見守ることも大切です。否定せず本人の話を受け入れましょう。
幻覚や幻聴により本人が不安や恐怖を感じているときは、担当医に相談すると対応策が見つかるケースもあります。

感情がコントロールできず興奮しているとき

ちょっとしたきっかけで感情が爆発することが多かったり、奇声や暴力が見られたりする場合には、薬物治療によって症状が落ち着くことがあります。
家族が対応に苦慮するようであれば、担当医に相談して薬物療法を視野に入れてもよいかもしれません。

排泄がうまくできないとき

認知症になると、トイレの場所が分からなくなり失敗してしまうことがあります。排泄がうまくいかないときには、まず原因を考えましょう。
場所が分からず間に合わないのであれば、本人の部屋をトイレの近くにしたり、トイレとわかる目印をつけるようにします。

食事を「食べていない」と言うとき

食事をしたことを忘れて「まだ食べていない」と言うときは、ちょっとしたお菓子や小さなおにぎりなど、栄養やカロリー面で影響の少ないものを出すと落ち着くことがあります。
「食べていない」ことを忘れてもらうために、違う作業をしてもらうのも有効な対策のひとつです。

動き回る動作が見られるとき

認知症の人に動き回る動作が見られても、特に問題がなければしばらく様子を見てもよいでしょう。もし時間があれば、一緒に歩いているうちに落ち着くこともあります。

ただし危険な場合には対策も必要です。足元が悪いにも関わらず階段を上ろうとするなら、手すりを付けて安全に上れるようにしたり、場合によっては階段に柵をするような対策も必要です。
外に出てしまうと帰宅できない可能性があるなら、玄関を二重ロックにするなどの対策を検討します。

まとめ

認知症の人の介護で大切なことは、本人の気持ちに対する理解です。一人の人間として尊重した対応を心がけましょう。
また、家族だけで認知症介護をしようとすると、ストレスがたまりやすくなります。上手な接し方をするには、介護保険制度や周りの人の支援を受けることも重要なポイントといえるでしょう。

この記事をシェアする

著者:中村 楓

介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級、認知症介護実践者研修修了
現役介護福祉士の介護コラムニスト。介護療養型医療施設(現:介護医療院)を含む病院やデイケア、デイサービスなど、入所から在宅までさまざまな現場を経験。介護職員や介護認定調査員の経験を経て、現在は相談員として勤務。介護の未来を明るくしたいという想いから、現場感あふれる記事を誰にでもわかる表現で執筆中。

ハートページナビは、介護保険・介護サービス事業者情報誌「ハートページ」のWebサイトです。
ハートページ誌は、全国約70市区・約100万部を発行する業界最大級の介護情報誌。20年を超える歴史(2001年創刊)、カバーするエリアの広さ、発行部数、各自治体や連絡協議会と連携し制作された信頼性の高さで、介護に関わるみなさまより高い評価を得ています。
ハートページナビでは、介護情報を専門に扱うサイトとして、介護に関わる皆さまに必要な情報、役立つ情報などを掲載しています。

おすすめコンテンツ

メニューを閉じる