親や家族の介護が始まり、「仕事を辞めるしかない」と追い詰められている状態の方もいるでしょう。しかし介護離職には、収入の途絶えや再就職の難しさなど、長期にわたるリスクが伴います。退職を決める前に、利用できる制度や介護サービスを知ることが大切です。
本記事では、介護離職とは何かをはじめ、仕事と介護を両立させるための具体的な方法を、ケアマネジャーがわかりやすく解説します。
介護離職とは、家族や親族の介護を理由に仕事を辞めることを指します。特に親の介護では、介護と仕事の両立が難しくなり、やむを得ず退職を選ぶ方も少なくありません。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、要介護度が高くなるほど在宅介護に費やす時間は増える傾向で、「ほとんど終日介護している人」と「半日程度介護している人」を合計すると、要介護1では約21%、要介護3で54%、要介護5になると80%にものぼります。
これでは寝不足や心身の疲労により、介護と仕事の両立が困難になってしまう方がいるのもわかります。
しかし介護離職の道を選択すると、安定した収入やこれまで築いたキャリアに影響が出てしまいます。また、企業側も経験ある人材を失ってしまうため、介護離職は社会的な問題のひとつとされ、厚生労働省も介護離職を防ぐ施策を推進しています。
介護離職は一部の人だけの限られた問題ではありません。誰にでも起こりうる身近な問題といえます。
厚生労働省の調査「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、2024年の離職者719万5,300人のうち、介護・看護を理由に離職した人は約9万3,500人にのぼります。男女別にみると、男性3万3,800人、女性5万7,400人です。
| 性別 | 人数(各性別の離職者うちの割合) |
|---|---|
| 男性 | 3万3,800人(1%) |
| 女性 | 5万7,400(1.5%) |
| 合計 | 9万3,500人(1.3%) |
介護・看護を理由に離職した人は、男性45〜49歳、女性55〜59歳に集中しています。このあたりは、管理職などの重要な役職を担う人も多い年齢層です。
その人のキャリアや企業に大きな損失が出やすい年齢層といえるでしょう。
| 男 | 女 | |
|---|---|---|
| 19歳以下 | ― | ― |
| 20~24歳 | 0.1% | 0.1% |
| 25~29歳 | 0.3% | 0.9% |
| 30~34歳 | 0.1% | 0.3% |
| 35~39歳 | 1.1% | 0.6% |
| 40~44歳 | 0.5% | 2.0% |
| 45~49歳 | 6.2% | 2.4% |
| 50~54歳 | 1.1% | 3.1% |
| 55~59歳 | 2.9% | 6.7% |
| 60~64歳 | 1.1% | 2.6% |
| 65歳以上 | 0.5% | 1.1% |
親の介護と仕事との両立が難しくなったとき、仕事を辞めれば精神的な負担が一時的に軽減できるなどのメリットがあります。
一方で、収入減や再就職の難しさなど大きなデメリットがあるため、退職を決める前にはこのあと解説するデメリットもしっかり理解しておくことが大切です。
ここでは、介護離職のメリットについて解説します。
退職すれば、親の介護だけに専念できます。常に親のそばにいられる安心感があり、通院の付き添いや急な体調変化にも優先して対応することが可能です。
時間的な余裕が生まれるため、落ち着いて丁寧なケアができます。
在宅介護をしていると、疲れて仕事から帰宅したあとや、ゆっくり休みたい休日にも、介護に追われてしまうことがあります。
このような生活が続けば心身の疲労を回復できません。退職することで睡眠や休息の時間を確保しやすくなるでしょう。
また、介護を理由に仕事を休む不安や職場でのプレッシャーから解放され、仕事によるストレスがなくなります。
仕事を辞めれば親の介護に専念できるというメリットがある一方で、収入の減少や将来のキャリアへの影響など、大きなデメリットがあります。
ここでは、介護離職の主なデメリットについて解説します。
仕事を辞めると、当然ながら毎月の安定した収入がなくなります。場合によっては、貯蓄を削りながら、生活費や介護費用を捻出するような事態にもなりかねません。
また、厚生年金の加入期間が短くなることで、将来受け取る年金額も減る可能性があります。自分や配偶者の老後資金が不足し、将来的に生活が苦しくなるリスクにつながるでしょう。
介護は終わりが見えないため、「親の介護が終わってから再就職しよう」と思っても、そのときには希望通りの就職先が見つからない可能性があります。
前述した厚生労働省のデータによると、介護離職は男性45〜49歳、女性55〜59歳に多く、この年齢層の方が以前と同じ条件で再就職することは簡単ではありません。介護によってブランクが長引くと、再就職はなおさら困難です。
非正規雇用などの望まない再就職になるリスクも考慮しなければなりません。
介護離職は、職場というコミュニティから離れることです。親の介護に専念すればするほど、社会との接点がなくなり、家族以外との交流が少なくなります。
人との交流が減ると、介護以外のことに頭を切り替える機会がなくなります。孤立感や不安が強まり、介護者自身が心身に不調を起こしてしまうリスクもあるでしょう。
介護離職には大きなデメリットがあるため、すぐに退職の道を選ぶのはおすすめできません。まずは、介護休業や介護休暇などの制度を活用しましょう。
これらの制度は、育児・介護休業法に基づいており、会社には法律を守る義務があります。
介護休業などの制度を利用するためには、以下の対象家族を介護している必要があります。
| 対象となる家族 |
|---|
| 2週間以上にわたって介護を必要とする以下の家族 配偶者(事実婚を含む)、父母、祖父母、子、孫、配偶者の父母、兄弟姉妹 |
制度を利用するためには、職場の人事担当者などへ相談し、必要な書類を提出しましょう。申請方法の詳細は勤め先でご確認ください。
ここでは、それぞれの制度について解説します。
介護休業制度は、対象家族1人につき通算93日まで休業できる制度です。最大3回まで分割して利用でき、介護サービスの調整や各種手続きを進める準備期間として活用できます。
介護休業中は、賃金日額の67%が介護休業給付金として支給されます。ただし、雇用保険に加入していること、休業前の2年間に12カ月以上の被保険者期間があることなど、一定の要件満たしている必要があります。
まずは介護休業制度を活用し、退職を検討するのはそのあとでも遅くないでしょう。
介護休暇制度は、対象家族1人につき年5日、2人以上の場合は年10日まで休暇を取得できる制度です。1日単位や時間単位で休めるため、通院の付き添いや役所の手続き、ケアマネジャーと面談するときなどに活用できます。
介護休業のような給付金はありませんが、会社によっては有給扱いとなる場合もあるため、お勤め先の人事担当者などに確認しましょう。
介護と仕事の両立に向けた制度はほかにもあります。状況に応じて働き方を見直すことで、介護離職をより防ぎやすくなるでしょう。
| 短時間勤務等の措置 | 短時間での勤務、時差出勤、フレックスタイム制度などを利用できる |
|---|---|
| 所定外労働の制限 | 残業が免除される |
| 時間外労働の制限 | 時間外労働が1カ月24時間、1年150時間以内に制限される |
| 深夜業の制限 | 午後10時から午前5時に勤務しない働き方ができる |
また、勤務先が独自の制度を設けている可能性もあるため、人事担当者などに確認することをおすすめします。
介護休業や介護休暇などの制度を活用しても、仕事との両立に限界を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
悩んでいる方は、ぜひ以下の3つの方法を検討してみてください。
介護と仕事の両立に悩んだときは、一人で抱え込まず専門職に相談しましょう。要介護認定を受けている方と受けていない方では、相談先が異なります。
要介護認定を受けていない場合は、まず地域包括支援センターへ相談しましょう。地域包括支援センターは高齢者の暮らしを支える総合窓口で、介護と仕事の両立に関する悩みも無料で相談できます。
必要に応じて要介護認定の申請方法も案内してもらえます。なお、要介護認定を受けると、1〜3割の負担で介護保険サービスを利用できます。
要介護認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーへ相談しましょう。ケアマネジャーはケアプラン(介護サービスの計画)を作成し、介護生活全体のマネジメントを担う専門職です。
介護と仕事との両立についても相談でき、両立の実現に向けたサービスの提案や、ケアプランの見直しなどに対応してもらえます。
介護は家族だけで抱え込まず、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護サービスに頼りましょう。
要介護認定を受けると、所得に応じて1〜3割の負担で介護保険サービスを利用できます。
利用するサービスの種類や頻度は、ケアマネジャーが作成するケアプランに盛り込まれます。
介護と仕事の両立で困っていること、家族が担っている介護負担の程度、ご本人の状態をケアマネジャーに伝え、サービスの利用を一緒に検討しましょう。
在宅介護では主に以下の介護サービスを利用できます。
| 訪問するサービス | ・訪問介護 ・訪問看護 ・訪問入浴介護 ・訪問リハビリテーション |
|---|---|
| 通いのサービス | ・通所介護(デイサービス) ・通所リハビリテーション(デイケア) |
| 宿泊するサービス | ・短期入所生活介護(ショートステイ) ・短期入所療養介護(ショートステイ) |
| その他のサービス | ・福祉用具貸与 ・特定福祉用具販売 ・住宅改修 |
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介護サービスを活用しても、まだ仕事との両立が困難な方もいるかもしれません。その場合は、老人ホームへの入居も検討しましょう。
「まだ老人ホームは考えていない」という方も、施設の種類や特徴を知っておけば、いざというときに判断しやすくなります。
老人ホームや高齢者住宅の主な種類は以下です。
| 特別養護老人ホーム | 原則要介護3以上で入居できる公的施設 |
|---|---|
| 介護老人保健施設 | 在宅復帰を目指し、リハビリなどのサービスを提供する公的施設 |
| グループホーム | 認知症の診断を受けた方が入居し、少人数で共同生活を送る |
| 介護付き有料老人ホーム | 24時間の介護体制がある |
| 住宅型有料老人ホーム | 介護が必要な人は外部サービスを利用する |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 見守りと生活相談のサービスがあり、賃貸で契約する |
老人ホームにはそれぞれ異なる特徴があります。たとえば、特別養護老人ホームは比較的安価で入居できる施設、グループホームは認知症の診断を受けた方が入居できる施設などです。
親に向いている施設は、ケアマネジャーに相談してみましょう。
介護休業制度などの活用や介護サービスの利用によって、介護離職はある程度防げます。しかし、それでも介護と仕事の両立に悩み、仕事を辞める道を選ぶこともあるでしょう。
そのときは、退職後の生活を支える失業保険(雇用保険の基本手当)について知っておくと役立ちます。
親や親族の介護を理由に退職した場合は、ハローワークで「特定理由離職者」と認められるケースが多くあります。
家庭の事情により離職を余儀なくされた人などが「特定理由離職者」に該当し、該当すると以下のようなメリットがあります。
| 通常の自己都合退職者 | 特定理由離職者 | |
|---|---|---|
| 給付制限期間 | 1カ月(待機期間7日) | なし(待機期間7日) |
| 必要な雇用保険期間 | 過去2年間に通算12ヶ月以上 | 過去1年間に通算6カ月以上 |
このように、特定理由離職者に該当すると、通常の自己都合退職よりも失業保険の条件が優遇されます。介護離職後の生活費や再就職の不安を軽減するためにも、退職前にハローワークへ相談し、確認しておきましょう。
失業保険は、働く意思と能力があり、求職活動をしている人に支給される制度です。しかし、そもそも介護離職は介護と仕事の両立が困難になって仕事を辞めることなので、すぐに求職活動はできません。
このようなケースでは、受給期間の延長手続きが可能です。本来、失業保険を受け取れる期間は離職から1年間ですが、申請により最長4年まで延長できます。
介護が落ち着いて仕事を探せる状態になってから、受給を開始することが可能です。
親の介護と仕事の両立に悩む中で、「すぐに退職できるのか」「再就職は難しいのか」と不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、介護離職に関するよくある質問にケアマネジャーが回答します。
会社によっては「退職は1カ月前までに申し出ること」などと定めていますが、期間に定めのない雇用契約では、民法627条で原則2週間前までに退職意思を伝えればよいとされています。
ただし、勤め先の合意があれば即日退職できる可能性もあります。親の介護で緊急性が高い場合は、まず上司や人事へ事情を説明し、介護休業や休職も含めて相談しましょう。
親の介護を担う子世代は40〜50代が中心です。この年齢層で再就職を目指すとなると、特別なスキルや経験がなければ希望条件に合う仕事は見つけにくいかもしれません。
また、ブランクが長引くと、給与の減少や希望する職種へ就けない可能性もあります。
勢いで退職を決める前に、介護サービスや職場の制度を活用して、介護と仕事を両立できるよう検討することが大切です。
介護保険サービスには、デイサービスや訪問介護、ショートステイなどさまざまな種類があります。どのサービスが適しているかはそれぞれのケースによって異なるため、親や家族のニーズに合わせて選択する必要があります。
仕事と介護を無理なく両立するには、ケアマネジャーへ相談して必要なサービスをケアプランへ組み込んでもらいましょう。
介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は、近年大きな社会問題となっています。退職すれば介護に専念できる反面、収入の途絶えや再就職の壁、社会的孤立など、長期にわたるリスクを抱えることになります。
しかし、介護と仕事を上手に両立させる方法もあります。介護休業制度や介護保険サービスなどを活用することで、仕事を続けながら介護と向き合っている方も少なくありません。
大切なのは、一人で抱え込まないことです。ケアマネジャーや職場などへ早めに相談し、無理のない介護を目指しましょう。
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